釧路地方裁判所 昭和53年(ワ)11号 判決 1979年3月27日
原告
深尾圭子
右訴訟代理人
大塚重親
同
高木常光
被告
国
右代表者法務大臣
古井喜実
右指定代理人
小林正明
外三名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因1のうち、本件物件が訴外佐用智昭の所有であつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告は、昭和五一年一〇月二九日、同訴外人に対し金一〇〇万円を貸し付け、その担保として、いずれも同訴外人所有にかかる別紙物件目録記載の地番所在の本件物件及びその内部備品並びにプレハブ式物置につき、引き続き同訴外人に賃貸して使用を許すこととしたうえ、所有権の移転を受けたことが認められる。
二そして、請求原因2の事実は、訴外青山金太郎が本件物件を解体したとの点を除いていずれも当事者間に争いがない。
三ところで、右二の事実によれば、澤田執行官は、本件物件につきこれを有体動産であるとして有体動産に対する金銭執行手続に従つて強制執行を実施したものであるところ、原告は、本件物件が不動産たる建物であるから、同執行官の実施した執行手続は違法であると主張するので、以下検討することとする。
民事訴訟法は五六六条以下(第六編第二章第一節第二款)及び六四〇条以下(同第二節)においてそれぞれ有体動産及び不動産に対する金銭債権の強制執行手続について定めているが、執行の対象たる有体動産及び不動産の意義については特に規定を設けてはいないので、有体動産、不動産の観念はこの区別を定めた基本的な規定である民法八六条に従つて決すべきであるところ、同法条によれば、不動産とされるのは土地及び其定著物であり(同条一項)、不動産以外の有体物はすべて動産(有体動産)であるとされている(同条二項)。そして、土地の定著物とは、土地の構成部分以外のもので、土地に附着せしめられ、かつ、その土地に永続的に附着せしめられた状態において使用されることがその物の取引上の性質であるものをいうと解するのが相当であり(大審院昭和四年一〇月一九日判決・新聞三〇八一号一五頁参照)、また、土地に定着して建設された工作物(建造物)のうち屋根及び周壁又はこれに類するものを有し、その目的とする用途に供しうる状態にあるものは建物として土地とは独立の不動産とされている(不動産登記法一四条、不動産登記事務取扱手続準則一二四条一項参照)。したがつて、右にいう不動産たる建物に該当するか否かの判断にあたつては単に当該建造物の物理的構造及び土地に対する物理的な附着の程度によつてのみ決すべきではなく、その規模、構造、堅牢性、耐久性及び使用目的並びに利用状況などにより永続的な土地への附着性の有無程度を総合的に考慮し、さらに、公示制度、強制執行制度等動産と不動産とでは異なる取扱いを定めている諸法規の各目的をも勘案して決すべきである。しかるとき、屋根、周壁等によつて構成された建物であつても、一時的あるいは場所的な移動を必要とする用途に供する目的で移設に適するような構造に製作されたいわゆるプレハブ式建物と呼称される建造物は、その土台を土地に附着せしめるような特別の付加工事を施した場合や土地に永続的に附着した状態で一定の用途に供されるものであると取引観念上も認めうるような特段の事情が認められる場合以外は不動産たる建物に該当しないと解するのが相当である。
そこで、右見地に立つて本件をみるに、<証拠>を総合すると、
1 本件物件はもと訴外金内秋雄の所有で、釧路市鳥取北六丁目一一番八に所在していたものであるが、昭和五〇年八、九月頃本件執行事件の債権者である有限会社むつみ商事の代表取締役訴外鍬村良一が右金内から買受けてこれを前記佐用智昭に売り渡し、同人は、これを別紙物件目録記載の場所に設置して昭和五二年二月五日の差押当時、内部に机、ロツカー等の事務機器を入れ、自己の経営する「マリモ電設」の営業事務所として使用していたこと。
2 本件物件は床面積約六坪(19.44平方メートル)の組立、解体の容易なプレハブ式建物であり、現在の構造及び設置状況は四隅に建築用の軽量ブロツク、その中間に木の角材の切れ端を置いて、そのうえに木の土台を組み、鉄骨をボルト、ナツトを用いて組み立て、壁面はこの鉄骨の溝に外側が鉄板、内側が合板のパネルをはめ込み(窓枠もはめ込み式になつている。)、屋根も同様のパネルを組み合わせ、金具でこれを押え付けて固定し、床もコンクリート型枠用の合板製パネルをはめ込んだものであつて、コンクリート打ち込み等の特別の基礎工事はなされていないいわゆる置き土台上に構築された建物であり、本件差押当時も、その後の解体移設に際して破損した建材の一部を取り替え、外壁の塗装をしたほかは同じ構造及び設置状況であつたこと。
3 そのため、澤田執行官は差押に際し本件物件の規模、構造、材質、用途等から本件物件は仮設用のプレハブ事務所であつて動産にあたると判断して、前記のように強制執行手続を進行させたものであること。
4 本件物件は昭和五二年二月四日、古物商でもある訴外青山金太郎が競落した後訴外後藤宣光に売り渡し、同訴外人は、同年四月中旬ころ、本件物件を二名の人夫を使つて約二、三時間で解体し、自己が中古車販売業を営む釧路市中園町七番地まで運搬し、翌日同所で組み立てて現在事務所として使用しているが(訴外後藤は本件物件につき未登記であり、建物としての課税もされていない。)、本件物件は強風により動くこともあり、冬期間には大地の凍結により床がもち上ることもあること。
以上の事実を認めることができ(この認定に反する証拠はない。)、さらに、前<証拠>によれば、原告は前記佐用智昭から本件物件の所有権の移転を受けたが、建物売買賃貸借の公正証書を作成したのみで、敷地の利用関係についてはその所有者である右同人との間で何らの話し合いもしておらず、差押当時までは本件物件の登記もしていなかつたことが認められる。
右認定の事実によれば、本件物件は、差押当時、屋根、周壁を有し、事務所として使用されていたものの、移設に適するような構造に作られたいわゆるプレハブ式の建物であつて土地に対する附着状況も土地に附着したというよりは単に地上に置かれていたに過ぎないとみるのが相当であり、他に取引観念上土地に永続的に附着していることを示すような特段の事情は見当らず、かえつて以前には移設を前提とした取引がなされたことも窺われるので、不動産たる建物とは認められず、有体動産に該当するものといわざるをえない。
そうすると、澤田執行官が有体動産に対する金銭執行の手続に従つて本件物件につき強制執行を実施したことには何ら違法のかどはないというべきである。
なお、<証拠>によれば、前記青山による競落後本件物件について土地家屋調査士太田昭夫による建物であるとの判断のもとに登記申請がなされ、昭和五二年三月一八日付で表示登記、同月二四日受付で原告名義の所有権保存登記がなされていることが認められるが、差押当時有体動産に該当し、有体動産に対する強制執行手続に従つて適法になされた差押及び競売の手続が、その後の登記によつて違法になるいわれはないから、前記結論は右事実によつて何ら左右されるものではない。<以下、省略>
(笠井昇 稲田龍樹 竹田隆)
別紙物件目録<省略>